- 偶然力を身につける
アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。
- 第32回 <偶然力を身につける>
- アメリカってクールだよね!
スタバでWindowsをあまり見かけなくなって久しい。もちろん世の中全体で見ればまだまだWin派が圧倒的優位なことはわかっている。けれど、いまや誰もがAppleユーザーに思えるくらい、MBAの浸透ぶりは凄まじいものがあります。もちろん「MBA」とは経営学修士ではなくMac Book Airのこと。Apple、Facebook、Google…。気づけば僕らのIT生活は完全に「アメリカ製」に包囲されている。あれっ?ちょっと前までこの手のテクノロジーって日本の専売特許じゃなかったっけ…?「プレステってクールだよね!」とアメリカの交換留学生に羨ましがられた高校時代が懐かしい。なぜこんなにもアメリカからばかり「まったく新しいモノ」が生まれてくるのでしょうか?!先日、ロサンゼルスへ撮影に行ったとき、僕はその片鱗を垣間見た気がしました。
- とりあえず「やってみる」人々
日本の撮影チームは本当に優秀です。どのシーンにどれだけ時間がかかるか。雨が降ったらどうするか。事前に細かく検証を重ね、プランBどころかFやGまで考える。ロケ弁の手配に至るまで心配りに抜かりはない。すべてがムダなく効率的。最小のコストで最大の成果を上げる。世界のTOYOTAに勤めていなくても、日本人のDNAには「KAIZEN(改善)」の心が刷り込まれているのかもしれません。
一方、アメリカのスタッフは良く言えば大らかです。悪くいえば大雑把で細かいことは気にしない。とりあえずやってみる。ダメならそのとき考える。「大味」とはアメリカの食事や車を評してよく言われる言葉ですが、どうやらそれは仕事でも変わらないようです。そのあまりに荒削りな仕事っぷりに、僕は「これはもしかしてヤバいかも…」「せっかく自分を信頼してくれたクライアントに申し訳ない…」と真っ青になりました。
しかしいざフタを開けてみると、アメリカチームが撮影した映像の方が日本チームのものに比べてダイナミックで味がある。計算され尽くしていないことから生まれる偶然の表情や動きが画面全体に予測不能な緊張感を与えている。さすがハリウッドテイスト。分厚いステーキ肉を鉄板にドーンと乗せて強火でゴゴーっと焼く豪快さが画面からジューシーな肉汁のようににじみ出してくる。「勢い」という計算がそこにはちゃんとあったのです。それを見た後だと、日本チームの映像はなんだかちょっと物足りない。美しくまとまっていて安心して見られる反面、どこかこぢんまりとして今ひとつドキドキしないのでした。
- お国柄はお土地柄
考える前に走りだすあの姿勢はいったいどこから生まれてくるのか?答えは道路を車で走ればすぐわかります。とにかく広くて、長くて、「ど」がつくほどデカい。どこまで行っても道と山と空ばかり。僕らが普段頭に思い浮かべる「広い」を100乗してもまだ足りない。遠くを見てるだけで視力が改善しそう。自分の距離感がどんどんおかしくなっていくのがわかります。「最寄りのマクドナルドまで125マイル(約200キロ)」の看板を見たときは腰が抜けそうになりました。「アメ車はコーナリングがダメ」と言われるのも納得です。何百キロもまっすぐ続く道路ばかりなら、曲がる必要なんてない。あんなところに住んでたら、細かいことを気にするのがバカバカしくなって当たり前。「小型化」という概念自体がまるで無意味。土地も人もモノもいくらでもある国の人々と我々とでは、そもそも思考のスケールがぜんぜん違う…と思い知らされました。
これは「アメリカがよくて日本がダメ」という話ではありません。そもそも私たちが急にアメリカンスケールでものを考えようとしても無理な話。むしろ狭い土地を効率よく使うことで、何世代にも渡って磨き上げてきた緻密さと正確さこそ日本の武器であることを改めて実感します。アメリカチームの考えと日本チームの考え、どちらを選択するべきか。僕らが最終的に出した答えは、両者をうまくハイブリッドすることでした。彼らが撮った迫力ある映像を、僕らが編集で徹底的に整える。結果出来上がったCMは、豪快さと精美さが同居した満足以上の仕上がりになったのです。
- 直感は最高の羅針盤
ブレイクスルーの種はいつも「知らないこと」に隠れている。完成したCMを見ながら、ふと編集スタジオで思った。最近の消費者調査によれば、いま世の中でいちばん嫌われている言葉は「失敗」だとか。ランチのお店さえ食べログを見てから決める時代。新しいこと、変わったことをするのは確かに不安。でもまだ誰も考えたことのない「まったく新しいモノ」に前例なんてあるはずない。世間の予想を超えるには、まず自分の予想を超えること。変化なくして、進化なし。思いついたら、まず動いてみる。知らない場所へ行き、知らない人に会ってみる。「面白そう!」という直感を信じ、身を任せてみることでどんどん予想もしなかった状況に流されていく。偶然を否定しないこと。それこそが新しいアイデアに出会う近道なのかもしれません。
だからもう「それで本当にうまくいくのか?」なんていう代案のない批判は気にしない。そんなつまらない声でせっかくのアイデアを潰すことこそ本当の失敗。無難な方、無難な方へとみんなが向かう中、逆方向を目指せばもうそれだけで新しい。必要なのは「ムリ目に張る」勇気。ホームランを打てるのは、いつだって空振りを恐れずバットをフルスイングした人だけだ。そんなことを思う2015年の春なのでした。
※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。
佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。
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